序章

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カタン… 「おお、トシ。今帰ったか」 戸を開け静かに部屋へ戻ろうとした男へと声を掛けたのは白の道着に紺の袴を着付けたほがらかな男だった。 トシ──そう呼ばれた男はついと視線を滑らせると苦笑混じりの仄かな微笑を浮かべた。 「近藤さん、こんな朝っぱらから稽古か?」 草履を脱ぎ揃え羽織っていた黒の紋付き羽織を脱ぎながら穏やかな声音で訊ねていた 「ああ、主上を守るべく民を守るべく武士として鍛錬を怠ってはならんからな!」 近藤と呼ばれたその男はにこやかな笑みを浮かべ自信に満ちた声音で言い切った─── 1869年(明治2年)────五稜郭 真っ暗な闇とその闇が音を吸い取ってしまったかの様な静寂の中柔らかな寝具に身を休めていたその人、元新選組鬼副長 土方歳三 は彼に似合わぬ弱々しい小さな声で呟いた。 「もう…武士の時代は終わっちまった。刀や槍の時代は終わちまったんだよ…近藤さん」
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