恋をバックパックに詰めて

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市内までは一時間ほどだった。 何を売っているのか分からない屋台や、見慣れない文字で書かれた看板、何故か一軒置きに馬鹿みたいに並ぶセブンイレブンを眺めるにつれ、異国に来た、という実感が湧き上がる。 窓から入り込むパッションフルーツの匂いと、渋滞のあいだをすり抜けていくバイクタクシーの騒音が五感を刺激する。 あの日私はバンコクにいた。 どうしてバンコクだったのか。 正直よく分からない。 仕事に疲れてて、どこかに行きたかったのは間違いない。 でも、同僚の女子たちが選ぶようなヨーロッパやハワイを選ぶ気にはなれなかった。 見るべきものが決まっている国、何が起こるか何となく分かっている旅、それはまるで日本での生活の地続きのようで、日常を超える何かが期待できると思えなかったからだ。 私は、ただ詰まらなかったんだと思う。 コピーのコピーみたいな毎日の繰り返しから、せめてこの旅の間だけ、自分でも予想がつかないような経験がしたかった。 そう思って私は、旅行会社で格安航空券だけを買って、旅のプランもホテルの予約もせずにバックパック一つで旅に出る事にした。
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