290人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
降りしきる雪にさえ掻き消されそうな声で、そう呟いた次の瞬間。
忍くんは、静かに元来た道へと踵を返した。
元気で。
サヨナラ。
あの日と全く同じ言葉を残して。
忍くんは、私の前から立ち去ろうとしていた。
手を伸ばせば、まだその姿を捉えられそうだったけど。
私は指一本動かせずに、そのままその場に立ち尽くしていた。
階段を降りていく忍くんの後ろ姿が、涙と雪ですぐに見えなくなってしまう。
さっきからずっと、右膝に激痛が走っていたけど。
私が彼の心に刻んだ傷に比べたら、こんなものはどうってことないんだ。
階段へ向かって真っ直ぐに付けられた雪の上の彼の足跡。
その場に残された唯一の彼の痕跡を目にした私は。
堪えきれず、とうとうその場にしゃがみこんで、ワッと泣き崩れてしまった。
抱えた膝に顔を埋め、声も殺さずに大声を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!