dodici

34/35
290人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
降りしきる雪にさえ掻き消されそうな声で、そう呟いた次の瞬間。 忍くんは、静かに元来た道へと踵を返した。 元気で。 サヨナラ。 あの日と全く同じ言葉を残して。 忍くんは、私の前から立ち去ろうとしていた。 手を伸ばせば、まだその姿を捉えられそうだったけど。 私は指一本動かせずに、そのままその場に立ち尽くしていた。 階段を降りていく忍くんの後ろ姿が、涙と雪ですぐに見えなくなってしまう。 さっきからずっと、右膝に激痛が走っていたけど。 私が彼の心に刻んだ傷に比べたら、こんなものはどうってことないんだ。 階段へ向かって真っ直ぐに付けられた雪の上の彼の足跡。 その場に残された唯一の彼の痕跡を目にした私は。 堪えきれず、とうとうその場にしゃがみこんで、ワッと泣き崩れてしまった。   抱えた膝に顔を埋め、声も殺さずに大声を上げる。  
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!