一片の言葉

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「彼、付き合いたてのときは、好きだとか可愛いとか毎日言ってくれたのに、今じゃ全然言ってくれなくって。花さんのところはいいなぁ。新婚さんですもんね。仲良さそうだし。今日なんて、いっぱいお祝いしてもらえるんでしょうね」 新婚と呼ばれる時期は過ぎたと思うが、仲は良好だと思う。 けれど、久慈は好きだとか愛しているだとか、滅多に言わない。 言われたときのことは、まざまざと覚えているほど、その機会は稀有だ。 でも、時折心を込めて、花の名を呼んでくれる。 「花」 時に恥ずかしそうに、時に切なそうに、時に切羽詰ったように、その二文字を口にする。 それだけで十分だ。 それが表情に表れたのだろう。 後輩は、勝手な勘違いをして「いいなぁ」と呟いた。
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