出前のアルバイト

3/6
310人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
21時を過ぎたそこそこ遅い時間なのに、灯り1つ点いていない。 正直、家賃1万円でもここには住みたくないというのが俺の感想。 ここで俺は初歩的なミスに気付いた。 部屋番号を聞くのを忘れていたのだ。 こういうミスがあった場合は大体、俺の携帯から客に直接電話するのだが、突然知らない番号から、特に携帯電話から掛かってきた電話を取る人間はそういない。 若干気落ちしながらも、とりあえずメモを片手にコールする。 相手が出たのは驚くほど速かった。 「もしもs」 『管理人室ですよ。』 そのあまりの察しの良さは気味が悪かったが、とりあえずお礼を言い、立てつけの悪そうな戸を開けてエントランスに入った。 暗い。 遠くの道を走る車の音が聞こえる位の静寂。 人の気配が全くしない。 引き戸の扉が左右に並ぶ廊下が続く。 廊下の蛍光灯は点いていない。 スイッチを探す手間よりも、さっさと届けて帰りたいという気持ちが強かったので、そのまま奥に進み、管理人室の戸をノックする。 ガラガラと戸が開いた。 部屋からの光が廊下に漏れる。 声のイメージ通りのヒョロっとした風貌の男性が、 「遅い時間にすみません。」 と迎えてくれた。 俺は部屋の灯りとその丁寧な対応に安心してしまい、 「暗かったから、ここまで来るのが凄く怖かったですよ。」 なんて冗談交じりの営業トークが出来る位の余裕は取り戻した。 その後、受け渡しと支払いは滞りなく終わり、俺は帰路に着いた。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!