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21時を過ぎたそこそこ遅い時間なのに、灯り1つ点いていない。
正直、家賃1万円でもここには住みたくないというのが俺の感想。
ここで俺は初歩的なミスに気付いた。
部屋番号を聞くのを忘れていたのだ。
こういうミスがあった場合は大体、俺の携帯から客に直接電話するのだが、突然知らない番号から、特に携帯電話から掛かってきた電話を取る人間はそういない。
若干気落ちしながらも、とりあえずメモを片手にコールする。
相手が出たのは驚くほど速かった。
「もしもs」
『管理人室ですよ。』
そのあまりの察しの良さは気味が悪かったが、とりあえずお礼を言い、立てつけの悪そうな戸を開けてエントランスに入った。
暗い。
遠くの道を走る車の音が聞こえる位の静寂。
人の気配が全くしない。
引き戸の扉が左右に並ぶ廊下が続く。
廊下の蛍光灯は点いていない。
スイッチを探す手間よりも、さっさと届けて帰りたいという気持ちが強かったので、そのまま奥に進み、管理人室の戸をノックする。
ガラガラと戸が開いた。
部屋からの光が廊下に漏れる。
声のイメージ通りのヒョロっとした風貌の男性が、
「遅い時間にすみません。」
と迎えてくれた。
俺は部屋の灯りとその丁寧な対応に安心してしまい、
「暗かったから、ここまで来るのが凄く怖かったですよ。」
なんて冗談交じりの営業トークが出来る位の余裕は取り戻した。
その後、受け渡しと支払いは滞りなく終わり、俺は帰路に着いた。
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