0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
あの星が、夜をそっと照らしてくれた。
その幽かな光が私を導いてくれた。
闇夜に寄り添ってくれるその光が私は好きだった。ずっとそれだけを見つめていた。
いつしか私はそれに憧れるようになっていた。
「私もあんな風になりたい。暗がりに惑う誰かに光を見せてあげられる人になりたい。同じ悲しみを抱いている誰かの光になりたい。」
手を伸ばす。しかし、その手は空を掻(か)くばかりで星には届かない。
背伸びをする。しかし、距離はちっとも縮まらない。
頑張れば頑張っただけ思い知らされる現実。ーー
「どうやったって近づけやしない」
ついに私は座り込んで、ぐずぐずと泣き出した。
「私に羽根があったらな……」
そんな時、誰かが教えてくれた。
「飛べない君は歩いていこう。君が立つ地面は、ほら、360度全て道なんだ」
濃藍(こいあい)の地平が緋色(あけいろ)に燃え出した。
辺りは依然(いぜん)として暗い。闇を湛(たた)えた世界は一寸先さえ判然(はんぜん)としない。
「こんなところを進めだなんて、正直怖いよ。……でもーー」
一歩、私は前に踏み出す。
「どうしても、あの星に近づきたいから、歩くよ」
その決断が正しいのかは分からない。今でも迷っているし、何度も疲れて立ち止まっている。今あるものも捨てられないでいる。それでも、諦めたくないんだ。
そんな決意が揺るがないように、自分に言い聞かせる。
「飛べ。未来へ。あの星へ」
あの星が、夜をそっと照らしてくれた。
その幽かな光が私を導いてくれた。
【結】
最初のコメントを投稿しよう!