ヒャクニチソウの花が咲く

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「さて、ここがあいつの言っていた”居候させてくれるかもしれない”家か」 そう呟くのは和哉。いたる所に包帯を巻き荷物を背負った彼の手には、様々な情報が書かれた地図が握られている。 そこは町の北側に建つ、大きな屋敷だ。この屋敷の住人は金持ちの家のお嬢様で同じ退魔士だ、というのを渉から聞いている。 「”家が大きいから手伝いが足りないだろうし、多分行けばなんとかなるだろう”か……。あいつ、教えてくれた割にかなり他人行儀だな」 和哉はそう言ってため息をついた。そしてふと後ろを振り向くと旧商店街の方を見た。 あの後、和哉は渉に連れられ旧商店街に戻り雑事堂という何でも屋に一日泊めてもらった。そこの主人は退魔士でありながら陰陽師の符を使う変わった人物で、渉が彼を泊めてほしいと言うと快く認め、さらに怪我の治療までしてくれたのだ。 そして今日の朝、彼はその店主にお礼を言って渉から聞いた”豪邸”に向き、今に至る。ちなみに荷物のほぼすべては店主がくれた布団やその他こまごまとした道具類だ。 地図を眺めながら、ふと和哉は渉の言葉を思い出していた。 「自分と親しい人々が幸せである事、か……。確かに綺麗事かもしれんがそういうものを信じてみるのも悪くないか。まあ俺に親しい人はほぼ皆無だが、これから作ればいいか」 そう言うと再び屋敷を向く和哉。するとその先に一組の男女が立っている。同い年ぐらいであろうか、彼らも同じように荷物を背負い何やら話している。人ではなく、退魔士でもないようだ。 すると彼らが和哉に気づき振り向く。そして男の方が声をかけてきた。 「おーい、あんたもこの屋敷の手伝い志望か?」 「手伝いかは知らんが、ここに来れば居候させてもらえると聞いてな」 和哉が言うと男はなるほどなと苦笑しながら言い、一方の女ははあとため息をついて顔をしかめている。 「ん?何かあるのか?」 「い、いやいや!あ、俺は山岡俊平、こっちはクロエだ」 「俺は弦本和哉、よろしくなお二人さん」 よろしく、と2人と握手を交わすと彼は屋敷を見る。そして笑みを浮かべながら呟いた。 「さて、いったい何が待っていることやら……。だが、それが面白いんだがな」 そんな時だ、あの知らせが彼ら退魔士やその仲間たちに届いたのは。
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