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第1章
俺は紙幣を一枚引っ手繰ると、その表面にうっすらとかかっている靄と俺の魔力をぶつける。
ドル札は瞬く間に俺の手の平の上で燃え上がった。
こいつだ。間違いない。あの日届いたドル札が原因だ。どういう理屈かだって?理屈じゃない。あれは魔術だ。「マヒアだ」なんだって?と聞き返されるが俺は無視する。
間違いない。
あれには強力な呪いが込められているんだ。それが今ファミリアを襲っている不幸の原因だ。くそ、知らぬ間に毒を盛られていたんだ。
「ホセさん! わかるように説明してくれよ」
「あ? わからなくたっていい。一刻も早くとにかくあのカバンに入っていた金を一枚残らず燃やせ! カバンをうちに持ち込んだクソッタレも俺の前に引きずって連れてこい! 今すぐだ!」
今にも銃を抜きそうな俺の顔を見て、部下たちが飛び出して行く。
「急げ。手遅れになる前に!」
俺は札束の残りをポケットにねじ込むと、部下たちを追うように事務所を出た。
この札束の中に信じられないくらい念が込められているに違いない。
おとぎ話の「黒煙のブルハ」のレベルだ。
おとぎ話のレベルってことはすなわち、ありえないってことじゃないのか?と俺は歯ぎしりしながら思う。
「たしかに良くないものがまとわりついてるね」
シティ郊外のソノラの魔術市場にある馴染みの店で確認させる。
「恐ろしいね」とソノラで長年魔術師をしている老婆は震える手で例のドル紙幣を放り返してきた。
「さっさとそれを持って出てっておくれ、老体には毒だよ」
「うるせぇババア、呪術師に心当たりはねぇのか!」
「乱暴はやめな、知らないよ」老婆の忌々しげな声でふと我に帰る。
「知るはずがない。わかってるだろ、あんただって。こんな穏やかな呪いなんてありえないさ。黒魔術だろうが思念の呪いだろうが、大概は湧き出るくらいの情念が注がれているもんだ。だが、こいつは違う。普通に擬態して、よくよく覗きこまないと秘密が見えない。これは魔法の類だよ。わたしらの側からしたっておとぎ話の世界さ」
それに、と包帯が巻かれた俺の左手をちらっと見ながら老婆はうっすら嗤った。
「それ、しっぺ返しの怪我だろう? それは消えないよ。あんただってナラカの遺児さ。決して魔力が無いわけじゃない。だがね、それでも無理さ。力が大きすぎるよ。全てを消し去ろうとしても、相討ちすら無理さ」
「クソが!」
俺は店を飛び出した。
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