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「どうしてそんなに優しくするの? 私のことが憎いんでしょう! 復讐が終わったからって、急に変われるの? 私には無理!」
仕方ないよ、と言った俺に涙でぐちゃぐちゃになりながら叫んだ。
好きな女の子が泣くのは、胸をしめつけられるように苦しい。自分が楽になりたいだけだと気づいていたけれど、もう我慢できなかった。
「ごめん。復讐なんて始めるべきじゃなかった。あんなのはただの八つ当たりだった」
「もちろん許されるとは思ってない。それでも、俺ができる償いはこうすることだけだから。罵っても、殴ってもいいよ。円の気がすむまで」
今更だとか、当然の言葉で円は俺をなじった。しかし、しばらくすると気が抜けたように空を見ていた。
その瞳には何も映っていない気がして、急に不安になる。あまりにもはかなくて、今にも消えてしまいそうな。
「円……?」
声をかけると、反応はした。「どこかへ行って」と俺に言った。
――無理だ。置いていけるわけない。
気づけば、円を腕の中に引き寄せていた。
「――っ、はなして!」
「嫌なら突き飛ばして。じゃないと離さない」
嫌がる円に、そう声をかける。しかし円は動かなかった。
それが意味するところは分からない。けれど、円が少しでも安らげたのだと信じたかった。
「心配しないで。良子さんのことなら、俺がなんとかする。きっと大丈夫だから」
大丈夫にしてやる、俺が。何もかも上手くいくと思ったんだ、この時は。
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