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「莉緒、帰ろうか」
彼は当たり前のように、みんなが見ている前で名指しする。
私は小さく頷いて、並んで駐輪場へ向かう。
彼は原付を、私は自転車を、そこから出して、押して、またみんなの前を通る。
「じゃあ、お先に」
「ばいばい、またね」
まだそこに残っているみんなに声をかけると、
「お疲れー!」
「気を付けてねん」
「ばいばーい」
そうやって当たり前のように送り出される。
――初カレが出来て、まだ1週間。
私にとってまだ全然当たり前ではない『2人で一緒に帰る』行為は、私以外の中では既に当たり前として浸透していた。
みんな、適応能力が高すぎです。
今日で、夏休みが終わる。
休み中はバイトのシフトを増やしてほとんど毎日出勤していたけれど、学校が始まったらそうはいかない。
バイト先で知り合った私と彼は、通っている高校は別々だ。
明日からは少し、会える日が減るのかもしれない。
「――お。莉緒」
「え、はいっ!」
慌ててピンと背筋を伸ばして返事をすると、彼――尚吾くんは「ぷっ」と小さく吹き出した。
「黙り込んで、どうした? 考え事?」
「う、ううん。ごめん、ちょっとぼーっとしちゃった」
へえ、と相槌を打ちながら、尚吾くんはちょっと困ったように眉を下げて笑う。
「俺といる時は俺のことだけ考えてて欲しいな」
途端、ボンッと音を立てて顔の温度が急上昇した。
1週間で、こういうのに、慣れ――るわけ、ない!
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