初カレ

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「ごめん。考えてたのはその、……尚吾くんの、ことだから」 「え、ホント? その割に難しそうな顔してたけど」 そう言いながらも、彼の顔は少し嬉しそうだ。 「でもそれ、口に出して欲しいなぁ」 にこりと笑って言われたら、バクバクした心臓の音まで漏れ聞こえてしまいそう。 「不満とか不安とか、あるなら我慢しないで。莉緒はもっと我が儘になっていいよ」 「……我が儘になったら、嫌われちゃうもん」 「はは、まさか!」 嫌われちゃうもん。 漠然とした不安を、彼は笑い飛ばした。 そんなことあるわけないでしょ、とでも言うように。 へへ、と私がはにかんで笑うと、目を細めた。 優しい目。 私を甘やかしてくれる人。 「で、何考えてたの?」 あ、そこは追究しちゃうんだ。 「……メグとアツシは、学校でも会えていいなぁって」 「全然俺のことじゃないし!」 そう突っ込んでおきながら、私が言いたいことは分かっているんだろう彼は、じっと私を見つめた。 原付を支える手を片方だけ放したり戻したりと少しソワソワしながら、ふうっとため息。 そして、「早く信号変わんないかな」と独り言のような呟き。 国道を渡る信号待ちだった。 これを渡ったら公園脇を抜け、住宅街を縫うルート。 車通りが多いここまではお互い原付と自転車を押して歩き、渡った後はのんびりと並走する。 最近は、公園に寄ってベンチでちょっとおしゃべりしたりもしてたんだけど。 「……なんで? 今日、急いでる?」 今日は公園には寄れないのかな、と思って聞いてみる。 「莉緒が可愛いこと言うから、早く良い子良い子したい」 本日二度目のボンッが発生した。
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