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「・・・フゥーーッ! とりあえず、深呼吸。深呼吸。」
目の前にそびえているのは、巷で「タワーマンション」などと呼ばれ持て囃されている・・・下々の者には、全く縁のない建造物だ。
それも・・・最上階。
ソコは、首がつってしまうほどの勢いで見上げても、窓すらよく見えなかった。
まさか、そんなお宅が次の派遣先になるなんて・・・
これから私は、ソコに住うセレブ達に対してどれだけ気を遣わなくてはいけなくなるのだろう?
そう思うと・・・
『碧(あおい)ちゃーん、そろそろお茶でも飲もうかね?』
つい先日まで、居心地良く働かせていただいたお宅のおばあちゃんの笑顔が恋しくなる・・・
「ううっ・・・こんな事になるのが分かっていたら、社内プロフィールに『派遣家政婦(プロ)』なんて書かなかったのに・・・」
只今の時刻、14:55。
私は、目の前のでっかいマンションを見上げながら、完全に怖じ気づいていた。
あれは、遡る事2日前・・・
ごくフツーの一般家庭の派遣先から会社に戻って来た私が、事務所の片隅で報告書を作成していると・・・
「あーっ、七瀬プロ!いいところに!」
「・・・何ですか?」
「急で悪いんだけどさー、明後日から別のとこ行ってくれないかなー?」
「は?・・・別のとこ?」
何でまた、急に・・・
「全く・・・困ったもんだよ。急に担当者不在のお宅が出来ちゃってね・・・」
「・・・はぁ。」
いきなり、担当者不在って言われても・・・私にも、担当のお宅があるんですけど?
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