第1章

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僕へ 僕は今、過去の僕に宛ててメールを書いている。このメールが過去に届くことを僕は知っている。信じる信じないは勝手だ。疑うようであれば、今すぐこのメールを破棄してもらいたい。ここに書かれていることは大きな混乱をもたらすだろう。信じられないようなら、これ以上は絶対に読まないで欲しい。 このメールが届いた日から10年後、病気で僕は死ぬ。しばらくの間は寝たきり状態で生きていられるが、死ぬのは時間の問題だ。足の先から壊死し始め、それが内臓にまで到達する。このメールを書いている今(それはつまり、メールを読んでいる過去の僕にとっては未来ということだ。ええいややこしい)僕は死の間際にある。もう何日も生きられないだろう。 これからは、1日も無駄にせず生きて欲しい。 僕は今とても後悔している。あまりにもやり残した事が多過ぎる。僕はあまりにも散漫に生きてきた。大事なことを先延ばしにし、難しいことを後回しにしてきた。積極的に生きようとしなかった。 どうかできる限りの事をして欲しい。毎日を全力で楽しんで欲しい。限られた命を有効に使って欲しい。 そして毎日、自分にこう質問して欲しい。 「今日1日を後悔せずに生きるには、何をすれば良いだろう?」 そうすれば必ず答えが与えられる。このことに僕は気づいた。だがもう遅すぎる。残された時間はあまりにも少ない。もう僕には何をすることもできない。 僕は呪いの言葉を吐き続けた。残された時間を神を罵倒することに費やした。どうしてこんな目に遭わなくてはいけないのか? 僕が何をしたというのか。そんなふうに、ひたすら神を責めた。それ以外に出来ることが何もなかった。 祈りが届いたというべきだろうか――そして僕は、このメールを書くチャンスを与えられた。神は、メールを10年前の僕に届けてくれるという。但し死の運命は曲げられないという条件付きだ。この病気は医学ではどうにもならない。だから、治療法を探すのはやめてくれ。 正直にいうと、10年前の僕に、本当にメールが届くという保証はない。あるいは妄想に過ぎないのかもしれない。それでも今の僕は、この可能性に賭けるしかない。 それから、もうひとつお願いがある。 A子にプロポーズしろ。 急がないと、取り返しのつかないことになる。
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