明里

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その日は朝からバタバタとしていた。 私も、あちらを手伝いこちらでつくろいものをし、そちらへお使いに出たりして、ほぼ走り回っていた。 何かがおかしいなってきづいたのは、お昼を少し過ぎた頃だった。 女将さんや芸妓のお姉さんが、青い顔をしながら話していたのだ。 「あかん。やってもうた…よりにもよって…」 「正直に言うて、許してくらはるお方達やあらへん。うちら…輪違屋はもうお終いや…」 いつもは冷静でしゃんとしている女将さんがみるからに慌てふためいていた。 輪違屋がお終いって、一体どう言う事だろう? 深刻そうな女将さんや芸妓のお姉さん達も気になるけれど、私があの輪の中に入っていってもどうにもなりはしないだろうと考えた私は、そっとその場を離れると、今この場にはいない他のお姉さん達の支度を手伝いに向かった。 「菊里ねいさん、簪はこちらの物でよろしいでしょうか?」 顔に綺麗に化粧を施す菊里ねいさんに、簪を見せながら確認をとる。 「ええよ。それより、梅里ねいさんどこにいかはったんやろか?」 いつもなら、菊里ねいさんと同じくらの時間帯からお座敷のお支度を始めるねいさんが、今日はまだお支度を始めてない事を先程から菊里ねいさんはえらく心配している。 そりゃそうだ。ねいさんがたのお支度はそれはそれは時間がかかるものなのだ。 毎日ねいさんがたはお店の始まる時間よりだいぶん前から丁寧にお座敷のお支度を開始する。 それが、今日に限って梅里ねいさんが何時まで経ってもお支度を始めないんだから、何かあったんちゃうんかと菊里ねいさんが心配するのももっともだと思う。 「さっき、お使いから帰って来た時、女将さんや梅里ねいさんが下の部屋に集まって何か話ししてはりました。えらい青い顔して、深刻そうだったんで声をかけずに上にあがってきましたけど、その時にやってもうたとか、許してくれないとか、輪違屋がもうお終いとか言うてはりました」 上にあがって来るときに漏れ聞こえてきた言葉を菊里ねいさんに伝えると、ねいさんは綺麗な顔を不安そうにゆがませながら、私に行った。 「あかり、悪いんやけど下おりて、おかあはんやねいさんの様子見てきてくれへんか・・・?なんや悪い予感する・・・」 ねいさんの言葉ももっともで、私は頷くと簪を禿の子達に預けると下の様子を見に階段をそっと降りて行った。
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