637人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
中瀬充のことなど本当は知る筈なかったし、知りたくもなかった。
世の中には知らなくていいこともあるなんて、そんなの嘘だと思っていた。
だが、彼の存在を知った時から、それは嘘ではなくなった。
世の中には、絶対に知らない方がいいこともある。
家に帰り、鞄の中から招待状を取り出して封を開けると、中から小さなメモがひらりと舞い落ちた。
『一人だけ招待状を送らないのは変なので一応送らせて頂きました。ごめんなさい。出席してくれなくていいですから』
少し丸くて癖のある彼女の字だった。
僕はその字を指でなぞった。
そりゃ僕だって、出席できる身じゃないことぐらいは理解している。
当然、欠席に印をつけて投函するつもりだった。
最初のコメントを投稿しよう!