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俯いた視界に、大きな手のひらが映って私の頬に触れた。
それだけで、冷えた心が温かくなりもれた溜息すら熱を持つ。
撫でるように肌を滑って、首筋を覆って親指が顎を支える。
上向かされて、目が合う前に私は目を閉じてしまった。
「恵美」
初めて聞く、藤井さんの優しい声音に私はほっとしてぼろぼろとまた涙が零れて。
零れた涙を、柔らかく温かい感触が拭っていった。
彼が、私の名前を呼んで
私を見て、唇が触れている。
そこに心はなくても
ただの互いの慰めでも
嬉しかった
たとえ酔いの戯れで朝には忘れてしまっても。
こんな惨めな私を見られてしまったなら、寧ろそのまま忘れてくれた方がいいかもしれない。
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