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隠してきたもの。
「奈美ちゃんの話を聞いてすぐ気づいたよ。あの子が話すアイトくんと、私が知っているアイトくんは全くの別人なんだもの。
私が知っているアイトくんは、奈美ちゃんが話すように弱くない。
簡単に泣かないし、ちゃんと喋れるし、なによりよく笑う。本心から笑ってるかどうかは置いておいてね。
全部含めてちゃんと『自分』を持っている。間違っても、人に作用される人間じゃない」
だからね、と三崎は続ける。
「私に見せなかったその部分が、アイトくんが隠したかったもの。忘れたかったものだよ。
でもそれは、あくまでも見えないようにしただけで消えてない。
アイトくんは変わったふりをしてるだけで、何も変わってないよ」
徐々に心臓の脈打つ速さが増すのを感じる。
全てがさらけ出されて、否定したくても何一つ言い返せない。
偽りの仮面が破られて、自分が保てなくなる。
「どれだけ思い込んでも、変わらない。わかるよ。アイトくんは弱いまま」
三崎さんが笑った。
楽しそうで、でもその目元には寂しさも混ぜ合わされている気がした。
気がしただけかもしれない。
「でもね、アイトくん。私はそんなアイトくんが好きだよ。
弱いアイトくんが好き。それを隠そうと自分を偽るアイトくんも好き。
だからさ、頑張んなくていいよ。嫌なことからは逃げよ? 」
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