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しかし、
「俺は行かない」
高広は足を止めた。
「どの面さげて、戻れるってんだよ」
高広にとって、未来の財産となるべき頭脳を持つ人物を殺したことは、耐えがたい苦痛だった。
それこそ、手を下した自分自身を許せないほどに。
高広は、保がこれまで見たことがないほど、憔悴しきった顔をしている。
保は、
「ふーん」
面白くなさそうに呟くと、手にした小さなスイッチを押した。
とたん、足元を地響きが襲い、地面が揺れる。
「なんだあ」
驚いて見上げた高広の目の前に、ガラガラと天井が落ちてきた。
「龍一さんに習って、爆薬を仕掛けたんだ。この建物はもうじき粉々にぶっ壊れる」
「なっ!?」
保とは思えない過激な発言に高広は、
「お前、いったい何のつもりでそんな――」
つい言葉を失ってしまうのに向かって、保は言った。
「高広が行かないんなら、俺もここに残るさ」
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