第1章 これぞ地殻変動期!

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 夢にまで見た憧れの純白のウェディングドレス。  ナチュラルにまとめた髪には上品で繊細なチュールのベール、そして勝ち誇ったごとく燦然と煌めくティアラ。  英国皇太子の結婚式の話ではなく、わが友人春子が長いこと付き合っていた腐れ縁(?)の彼氏とついに結婚にゴールインしたのだ。  寺内さくらは披露宴会場の雛壇で可憐な微笑をたたえている花嫁に、歓喜と羨望と焦燥が入り混じった眼差しを向け、手にしたグラスのシャンパンをあおった。  このオメデタイ華美な祝宴で飲まずにいられようか。  春子とは女子大の付属校で小学校から高校までずっと同級生だった。  一応「お嬢様大学」という看板で、ハイソなレベルではないけれど、中流家庭の子女が集まった学校には意地の悪い子もおらず、思い起してみると居心地の良い学園生活だったものだ。  しかし十二年間の長きに及ぶ女ばかりの花園での毎日にいささか辟易としていたし、男子学生と一緒に勉強したい(遊びたい!)ばかりにさくらは共学の大学へ進学し、春子は賢くもそのままエスカレーターで女子大へと進んだ。  賢くも、と今になって当時の決断を振り返って思うのは、彼女が女子大時代に花婿となる彼氏に巡り逢ったからだ。  一流とは必ずしも言えない共学大学で、イマイチ冴えない男子学生に囲まれていたさくらを尻目に、「お嬢様系の女子大は有名大学の男子学生からコンパとかよく誘いがかかるの」と春子は嬉しそうだった。  そして彼女はその手の飲み会でエリート大学の学生と知り合った。  さくら達はサーティーサムシング(昔風に言えば三十路)を目前に控えた二十九歳。春子が彼と付き合い始めたのは八年ぐらい前のはずだ。  「長過ぎる春なんじゃない?」と優柔不断な彼氏のことを聞かされるたびに、心配するより冷やかしていたものだった。  親友として春子の結婚に深く安堵し手放しで喜ぶべきなのだけれど、いざめでたくゴールインされてしまうと、正直言って複雑な心境だ。 「別に結婚なんかしなくても十分楽しいよね」「そう、そう」、と女子会で盛り上がっていた独身仲間がまた一人減る、ということだし、今年になって既に同級生二人が婚約に漕ぎ着け、何やら地殻変動が起きているようなのだ。
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