第1章 これぞ地殻変動期!

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 まさか遥か彼方、英国皇太子の婚約・結婚が日本の大和撫子を感化したとは考え難いので、ひょっとしてこれは二十代最後のあがきなのかな、と推察してみる。  いや、春子は以前「ウィリアム皇太子だって大学時代のスイートハートと長いこと付き合ってまだ結婚していないじゃない」、と怖れ多くも英国王室を引き合いに出して彼氏の煮え切らない態度を自分に納得させていたことがあるから、ロイヤル・ウェディングの影響はなきにしも有らず、かもしれない。  天井には豪華絢爛に煌めくシャンデリア。テーブルには贅沢な白バラのブーケ。  さくらは再びシャンパングラスに手を伸ばす。  それにしても六本木にあるこの超高級ホテルはさくらが披露宴に使いたいと密かに望んでいたわけで、ここで一緒にお茶をした時に春子にもその夢を打ち明けたはずだ。  彼氏がいないこちらには当面結婚の当てなどなく、捕らぬ狸の皮算用だったとしても、このホテルを先に使われてしまったのは面白くなかった。  雛壇で幸せいっぱいの笑みを浮かべている春子は、公平に見て綺麗だ。  披露宴にはメイクアップ・アーチストが付くとのことだったから、メイクのプロのお陰、ということかもしれないけれど、花嫁はナチュラルな初々しさと華やぎに溢れ、大袈裟でなく女優顔に見える。 「さくらはお化粧しなくても美人だから」なんて昔から春子におだてられ、自分でもちょっとした優越感を持っていたのだが、ウェディングドレスの可憐な春子の姿を見て、実は彼女の方が美形だったのでは、とさくらは内心不安になった。  春子の彼氏とは、前に紹介されて以来長いこと逢っていなかったのだけれど、これがまたイイ男になっていて我が眼を疑ったほどだ。  確か彼らが付き合い始めて間もない頃、一度ダブルデートをした。  「カップルプラス女友達の三人で出かけるって数が半端で不自然じゃない」と春子に眉をしかめられ、「それじゃあ」と単なるクラスメートに過ぎなかった男友達をわざわざ数合わせに調達し、四人で居酒屋へ飲みに行った憶えがある。  素敵な人に出逢った、とそれまで春子に散々のろけを聞かされていたので興味津々で出向いたところ、大学のロゴが付いたTシャツを着て現われた彼氏は線が細い秀才タイプで、良く言えば物静か、悪く言えば面白くない男だった。
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