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部長の家に真っ直ぐ帰ると、大好きな香りで満たされた空間が出迎えてくれて。 『会いたかったよ、彩星。』 ソファーにバッグを置いた私を、部長がギューっと抱きしめた。 『帰ってこれなくてごめんね。』 部長は忙しい中、会いに来てくれたのに。 私は会いに行けなかった。 3連休が取れた時に帰ろうとしたけど、部長がそれを止めてきて。 『声が、疲れてるから休んだ方がいい。』 って、電話で話していた時に、上司として彼氏として、冷静に言われた。 案の定、その連休は熱を出してダウンしてしまって。 今となっては感謝だけど、あの時はものすごく切なかった。 会いに行きたいのに、来ない方がいいと言われて。 それが私のためだって言うけど、どうしても会いたくて。 『会いたかった……。』 部長に負けないくらい、部長を抱きしめる。 会いたくて、触れたくて仕方なかったって、この気持ちが全部伝わるように。 『彩星、疲れてるでしょ?』 疲れてるけど、そんなのどうでもよくて。 だから、首を横に振って大丈夫って答えた。 『休み、長いんだから。今日はゆっくり休んだ方がいいよ。』 それでも、もう1回首を振る。 『仕方ないなぁ……じゃあ、こっちにおいで?』 飛行機が離陸する時とは違うけど、身体がフワリと浮いて。 寝室に行くと思っていたのに、連れて来られたのは洗面室。 『一緒にお風呂入ろう。疲れも取れるし。』 そっと床に足を降ろされて、また抱きしめられた私の耳元に、部長が唇を寄せる。 『それに、もっとくっついていられるでしょ?』 背中のファスナーが、軽快な音を立てる。 緩くなったワンピースが、パサッと足元に落ちた。 部長の視線が留まったもの。 パリで買った、鮮やかなパープルの総レース。 透け方と布の少なさが大人過ぎるとは思っていたけど、綺麗だったから。 『……大胆だな。』
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