第1章

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 大学に入学して1年が経った。  田舎を離れ、初めての一人暮らし、憧れのキャンパスライフ、世間一般にいう社会人までのモラトリアム期間というやつだ。  恋愛、ほどほどの勉強、楽しいサークル活動、バイト。  そんな甘い期待に胸を踊らせていた俺の大学生活への熱情は、1年も経つとどこかに消え失せていた。  毎日変わり映えのしない反復するだけの生活。  思えば、小学校からの中学校。中学校からの高校。どれも同じように最初だけ今まではとは違う何かが起きるのでは? という期待感に溢れていた気がする。  熱情は慣れという氷に冷やされ、すっかり冷めきっていた。  そして、親の監視のない一人暮らしでは生活様式は怠惰になり、昼間寝て、今のように夜更かししても誰も文句は言わない。  大学も2年になるとどういう生活ができるか学ぶ、その一つが必修ではない科目、余裕のある科目があるとサボり出す。  退屈。  だからなのか、何かないかな。と、夜暇さえあれば深夜徘徊をしている。  日常とは違い、大地を照らし出す太陽の自然光ではなく、人の作り出す人工の灯りが作る世界は普段より少し非日常感を感じた。  本来なら人が行動する時間ではない闇の世界を、人工の灯りでわずかに闇を照らしているかのような世界観。  駅前などの繁華街を少しずれていくと、静かで外灯や店の明かりなどが減り、人間も少なくなる。そこには深い紺色のような暗闇の世界が広がる。  そんな非日常的な雰囲気に、いつもとは違う何かイベントでもありそうだと、思い。いや、願っている。まるで映画やドラマ、漫画やアニメのようなイベントが起きるのではないか、そう願っている。  だが、現実にはそんなことは起きないのを知っているし、わかっている。そんな感情に蓋をして今日も外を歩いている。  ただ、最近は寒くなってきた。  冬が近い。  冷たい外気が熱を奪う。  時折吹く風は肌を切るように冷たく、熱を持った頬を意識する。  今日は特に寒い。 「雪が降りそうだな‥……」  11月も下旬、初雪が降ってもおかしくない時期ではある。  外灯の下から見上げる空は漆黒の夜ではなく、重い灰色の雲に覆われている。  ポケットから手を出し、視線を落とす。  腕時計の針は2時半を指していた。  今日は友達に聞いた隣町境にある森の中に公園がある場所に来た。  ここは何でも昔とある大学生が事故死した泉があるらしい。  普通ならこんなとこに来はしない。  だが、俺は普通とは少しだけ違う。  いわゆる見えないものがわかるのだ。  わかるといっても見えたり、聞こえたりはない。  なんとなくいるかも? その程度のものだ。  だからなのか、昔からなんとなく悪いもの、良いもの。それくらいの区別ならわかる。  怖いという気持ちもあるが、悪いものなら避けられるという自負のようなものがあった。  それゆえに好奇心が勝っていた。  にわかだか、万が一に備えてネットで調べた対霊へのお手製の呪符を作っている。  準備は万端。  俺は大きく外気を吸って深呼吸した。  身体の中も外も冷えるのを感じた。
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