第1章

8/8
235人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
―松尾― あれから数日。 毎日のように社食に顔をだし、スーパーに買い物に行くが彼女と遭遇することはなかった。 仕事場はフロアが違うから会う事は叶わない。 思いだけが募っていく。 会えない時間が愛を育むというのであれば二人の間の愛はきっと大きなものになってるだろう。 今日も会えなかった。 重い体を引きずるように会社を後にする。 一瞬でもいい。彼女を見たい。声だけでもいい。彼女を感じたい。 彼女を思うだけで涙が溢れそうになる。 ぼやけた視界の先。会えないと思っていた彼女が居た。 もう限界だ。伝えよう。君が好きだと。 ゆっくりゆっくり近づいていく。 何て言って声をかけたらいいだろうか。 左手が伸びて肩に触れようとした瞬間、彼女が走り始めた。 「加藤さん!」 嬉しそうな声で大きく手を振った彼女は『加藤さん』めがけて走っている。 待ってくれ!君は僕の事が・・・・ 「遅い」 走った彼女に対して見覚えのある男が横柄な態度を取る。 営業の加藤太朗。最悪だ。こんな男の毒牙にかかっているのか君は! 二人の姿を呆然と見つめる僕と加藤の視線がぶつかる。 「お疲れ様です」 思わずそう声をかけてしまった。 彼女が一瞬驚いた顔をして加藤の陰に隠れる。 なんで? 「どうした?」 こっちのお疲れ様になんの反応も示さないまま彼女に問いかける。 「あの人知ってる人?」 そんな! だって、だって会社で何度も視線があったじゃないか! 手だって振ってくれた! スーパーでだって気付いてくれたじゃないか! 「知ってる人って何言ってるんだ。同じ会社だろうが」 「え?そうなの? ごめんなさい。てっきりストーカーかと思っちゃって」 彼女の言葉に驚愕する。 ストーカー?誰が?加藤が? 「何?松尾、佐久間の事追い回してんの?」 一応、僕の方が君より年上だと思うんだけど。 「追い回してるのは君の方だろ。佐久間さん怖がらなくても大丈夫だから」 手を差し出すとやっぱり隠れる彼女。 「なんで?」 「そりゃあ嫌われてるからだろう。 ストーカーかなんだか知らないが佐久間に手を出すな」 「手を出すなって君には関係ないだろ!」 「コイツは俺のだ」 そう言って彼女の首筋にキスをした。 「彼女に触れるな!」 咄嗟に声を荒げると彼女がおびえた表情をした。 続く。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!