第1章

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 ノートと参考書を広げる架くんを見ながら、ある言葉が少し引っかかった。私の成長が架くんのため。その意味を訊きたいけれど、私は飲み込んだ。答えてくれないような気がしたから。  二冊の参考書と一冊のノート。ノートは私が使うためだろう。  指定されたページを開くと、現在授業でやっている部分だった。  中学校の頃から先生に言われていた。基礎はできているが応用が上手くできない。もっと柔軟な思考を持つように、と。  高校生になった今でも、応用問題は苦手だった。  参考書の上から順を追って問題を解く。最初の方はすんなりと解けるのだが、徐々に時間が掛かるようになり、そして手が止まる。 「そこがわからないのか」  黙視していた架くんが口を開いた。 「私、昔から応用が上手くできなくて」 「それは知っている。基礎から外れるに従って時間がかかっていた。でも理由はわかっているから対処のしようはある」  架くんの言葉が本当なら、私は今よりも勉強ができるようになる。それ以上に、先生たちでも諦めていた部分をなんとかしてくれるというのが嬉しい。 「でもそれって簡単に解決するの?」 「問題ない。お前の性格からすると、授業はちゃんと受け、頭には入っている。つまり応用の『手段』は知っているんだ。『結果』は『手段』を使わないと出てこない。あと必要になるのは『過程』だ。お前は基礎問題と応用問題の線引きが上手くできないが故に『手段』をどこで使ったらいいのかがわからないのだろう。お前に必要なのは『過程』だ」  言われてみて気付いた。確かに応用の式は知っているのだから、使えば答えが出るのは当然。でもその式をどこで使ったらいいのかがわからないと意味がない。 「言ってしまえば頭が固いのだ」 「わかってました……」  架くんから視線を外した。諦めるしかない事実も存在する。 「悲しそうな顔をするな」  もう一度視線を戻すと、眉間に皺を寄せる架くんの顔があった。でもそれは怒っているのではない。目を細めて眉尻は下がり、なんだか悲しそうだった。 「えっと、ごめん」  何故そんな顔をするのかわからなくて、なんとなく謝ってしまった。 「いいか、少しずつ更正していくぞ。まずここだが――」
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