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◇
セルオス小国に再び光が戻った。
突き抜けるように広がる蒼空に、舞い散る紙ふぶきと、歓声。
「セルオス国万歳!」
「シェリーナ王妃万歳!」
城下の広場に集い復興の喜びに沸く民たちの喜びの叫びは、小国とは思えないほどに大地を揺るがす轟音をたてた。
『やれやれ。…凄い盛り上がりだなあ。イオムの人たちも年中お祭り騒ぎだけど、これには叶わないや』
広場の隅にいた緋色の竜テラはクスリと笑ってそう言った。
『…今、何か言った?テラ!』
人々の歓声に掻き消されテラの台詞を聞き落としたレディがテラの隣でそう叫んだ。
『…別に!』
テラは笑って返すと、自分の主が立っているセルオス城のバルコニーを眩しげに見上げた。
「いいねえ。こういうの。…グフタムのテレサ姫が恋しくなっちまったよ」
片側の口角を持ち上げちいさく呟いたそうマックスの言葉を、不思議なことにレディはその時だけは耳ざとく聞き届けていた。
『あら。じゃ失恋の痛手はもう癒えたってわけ?さすが、あなたはそうでなくっちゃ。マックス』
「・・・るっさい、レディ!」
マックスに窘められたレディはクスクスと笑い、同じようにバルコニーを見上げた。
城のバルコニーに佇むシェリーナ王妃は、美しい丹色のドレスを身に纏い、幸福な微笑を浮かべ、親愛する国民たちに手を振り続けていた。
彼女の脇には誇らしげに鎮座する、暗黒守護竜ディマン。
エリック、ルーナもその傍に立ち、皆から惜しみない賞賛を浴びていた。
歓喜する人々をこの高台から眺めていたエリックは、やがて大きく伸びをし、それから右肩を押さえくるりと腕を回した。
それが、「そろそろ旅立つとき」にする癖であることを知っていたルーナは、ハッとして彼に駆け寄った。
「エリック…もう行くの!?」
「ああ。…西の大陸の方もどんな具合だか、気になるしな。」
「…。」
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