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次の授業は音楽で、移動教室だ。移動するのはいつも私だけど。
なんで教室移動って言わないんだろう。
入学式から一ヶ月が経った。
もう5月だ。入学式に見た桜は葉桜になって、みんないつも一緒にいる友達がもう決まってて。
そして私にはそんな友達がいない。
でも、べつに友達がいないわけじゃなくて、いつも一緒に行動するような友達がいないだけなのだ。無理をすれば、そういう人達のことを友達と呼べなくもない。
音楽室まで1人歩く。
私の先を行く2人組も、さっき追い越した3人組も、私より器用なんだ。私には真似できない。
高校じゃ女の子どうしって、何を話せばいいの?
昨日のドラマのことなら、私はそんなの観ていないし。どうでもいいようなことなら、どうでもいいことって何か分からないし。
だからそう、これでいいんだ。
南校舎3階の突き当たりに音楽室はある。その入り口のところに、上級生のスリッパが一つだけ残っていた。色は3年生のベージュ。前の授業の先輩がまだ残っているんだろう。
スリッパに書いてある、読み方が分からない「月輪」の名字が目に入った。変わった名字。
スリッパにまで敬意を払う必要はない。色違いの先輩のスリッパの隣に私のスリッパを脱いで揃える。
教室に入ったらそのままロッカーから教科書を取って私の席へーーーーと思ったのに。なんで。
私の席が誰かに座られてる。
さすがにクラスメイトの顔は分かるから、さっきのスリッパから考えても他に先輩らしき人はいないし、この人が先輩のはず。
って言うか寝てるし。綺麗な寝顔……近づくと聞いてるこっちまで眠くなってきそうな、微かな寝息が聞こえる。
その先輩は机に突っ伏すでもなく、座ったまま寝ていた。よくもまあ、バランスを崩さずに。
黒くて長い綺麗な髪に、対照的な白い肌。口許を可愛くもにょらせている。女の子が無防備に寝顔を晒しすぎだけど、これは減点対象にならなさそうだ。
ともあれ見惚れるように観察してみたけれど、時間は止まってくれない。起こさないと私もこの先輩も困ったことになる。
でも、え、私が起こすの?
例えば先生とかが起こしてくれたりは、
「湯梨(とうり)さん、悪いけどその寝てる月輪(つきのわ)さんを起こしてくれる?」
しないんですね。
「はい……」
嫌ですとも言えない。
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