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「どこか行こうか?」
頭の上からボソリと聞こえて俺は勢いよく斜め上を振り向いた
「……お、起きてたんですか?」
がっちりホールドのおかげであまり身動きは取れなかった
バクバクと跳ね上がる俺の心臓の音は、この距離では哲さんに聞こえてしまうかもしれない。
くわぁ、と欠伸をした哲さん
(あ、猫みたい)
なんて思う俺は本当に危機感というものが皆無だ。
「お前の声で起きた…
それより天気もいいしどっかドライブでも行こう」
お腹に回された手に力を込められて、密着していた体がもっと密着する。俺は哲さんを見上げるのを諦めておとなしく元の位置に戻れば、俺の背中にトクトクと優しいリズムを刻む哲さんの心音が伝わってきた。
「だめですよ!哲さんせっかくの休みなのに!」
「休みだから行くんだろう?それに俺は颯太と出かけたい」
この人は、本当に。
天然なのか計算なのか…いや、8割方計算だと思うがこういう言動が板につきすぎて逆に素なのかもしれないとも思える
寝起きのいつもとは違う柔らかなしゃべり方も、猫のように俺の首筋に顔をうずめるその仕草も、俺はどんどん――――
「腰、大丈夫か?」
邪念を紛らわせるようにギュッと瞑っていた目を解いて俺は哲さんの腕の中で彼と目を合わせられるように寝返りを打った
「もう慣れました。それより…俺の体綺麗にしてくれたのってやっぱり…」
「俺が無茶させたからな」
「毎度ありがとうございます…」
「イイエ」
体を預けるように哲さんの胸元に額を寄せる
強く優しく抱きしめられて、俺は先ほどとは違う意味で目を瞑る
背中越しに感じていた心音がよりクリアに聞こえ、この音はやはり俺の心を落ち着かせてくれるんだなと1人静かに思っていた
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