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「哲さん準備できました」
互いにシャワーを終えて、部屋着から私服に着替えると彼はすでに準備を終えていたようでベランダで煙草を吸っていた
後姿だけでもわかるその美しさ
スラリとした体を包むのはいつものダークトーンのスーツではなく、細身のパンツとシンプルなTシャツだが。
「じゃあ行こうか」
振り返った哲さんも、美しかった。
大人の男性に美しい、なんて表現は正解かどうか不安なところではあるが”カッコイイ”とか”イケメン”とかでは表せないんだからどうしうようもない
シンプルな革素材のネックレスにごつめの時計
ささやかながら存在感ある大人のアクセサリーがさらに哲さんを引き立てた
(ヤバい、俺、すげー子供っぽい)
俺だってそれなりにお洒落な服を選んできたつもりだ。
だが、この人と並ぶには些か子供過ぎる。
っていうか俺が横に並ぶならスーツ引っ張ってこないと無理かも
「大丈夫か?」
俺の頭をくしゃりと撫でながら哲さんは笑った
「そうだ、荷物は全部車に積んでおけ。帰りはそのまま送る。」
「あ、はい…」
明らかに落ち込んだ声を出してすぐに”失敗したと”思う。
俺は学生で、彼は社会人
明日は月曜でまたいつもの日常が戻ってくる
それに俺は都合のイイ相手
彼には彼女がいて、俺はその繋ぎだ。
俯きかけた顔をあげて俺は笑った
哲さんが一瞬面食らったように驚いて、それから首をかしげる
「また来ればいいだろう?なんでそんな顔をする。」
「…来てもいいんですか?」
「当たり前だろ」
逆に、来ないのか?くらいの言い方
哲さんの意図はわからないがどうやら俺と彼の関係はこれで終わりではないらしい
「ありがとうございます」
ホッとしたような、避けたかったような、そんな微妙な気分で俺は彼の家を後にした
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