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披露宴会場の扉の前には、佳奈子の父が待っていた。
扉の向こうは招待客の談笑の声がざわざわと聞こえている。
佳奈子と楓が選んだ結婚式は、式と披露宴が一体化した形のものだった。
披露宴会場の真ん中にバージンロードがあり、奥には簡易の祭壇もある。
招待客全てにも、式での愛の誓いを見てもらいたいと、二人でこの式の形に決めた。
「それでは、新郎様は先に会場にお入りください」
スタッフが会場に入るように楓を促す。
楓は一度ふうっと大きく息を吐いてから、佳奈子と父を振り返った。
「それじゃ、先に行ってきます」
ぎこちない、少し緊張気味の笑顔を見せてから、楓はスタッフに先導されて会場内に入った。
司会進行のアナウンスが、扉越しに聞こえてくる。
次に楓に会うのは、バージンロードの真ん中。
そこで父から楓にと引き渡され、いよいよ本当に自分は楓のものになるのだ。
「………寂しい? お父さん」
父の腕に手を絡ませながら聞くと、父はそれには何も答えず、何とも言えない表情で小さく佳奈子に微笑みかけた。
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