第1章

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山崎の奴っ! 我らが西大生男子の特段の憧れ、不可侵の華、クレオパトラもかくやの麗しの美~~2年の夏目キヨ嬢を、奴は舌先だけの陳腐で下劣極まりない甘言を弄し、彼女の清純な同情心につけ込んでデートまでこぎ着けた下衆の極みめっ! 本日正午に新橋にて待ち合わせ、 そこから見るだけで目が潰れる高級品が墓石のように整然と並びこの世の欲望が集約されている現世の地獄と名言しても決して過言ではない銀座などという禍々しい街へとキヨ嬢を強引に連れ込み、 あまつさえ、果実博覧コースなどという千疋屋の中でも特段値が張るコースを振る舞ったらしいということは、偵察隊によって2時前には全校生徒に知れ渡っておりました。 奴め、まさかの銀座。 そこまでの金を一体どこで手に入れたのか。 郷里よりの仕送りと後期分の学費全額、さらには怪しげなヤミ金で借金でもして、この一大事に臨んだに違いありません。 してやったりの山崎の顔を思い浮かべると、わたくしの心は万力で締めつけられるように痛みました。 足元のふらつきは空腹のためだけではありません。 それにしても果実博覧コースとは、いやはやまったく大げさな。 果物が好きだというキヨ嬢の意図を曲解に曲解を重ねた、奴の誤爆・誤認識と言わざるを得ない悪の所業で、 キヨ嬢も流石に呆れ果てて山崎のことを大嫌いだと結論付けたに相違あるまい、とはキヨ嬢親衛隊の共通の見解となっておりました。 学友たちとこっそり手に入れた果実博覧コースのメニュー表を吟味したところ、 桃や西瓜、柿や蜜柑といった馴染みの名前はそこにはなく、ラ・フランスやパッションフルーツ、マンゴスチン、ライチーなどの横文字が並ぶ様には爆笑と涙を禁じ得ませんでした。 大和撫子の究極を体現するキヨ嬢を喜ばすには、日の本の民が食すべきにふさわしい食材をもって慎み深く歓待するが正解ではありませんか。 外国の果実を二人揃って奥歯でかじる。 溢れ出した汁を慌てて啜り、小さく笑い合いながら、初めて食べた!上手いですね、とでも会話を交わしたのでしょうか。 山崎の語彙力の皆無さが全面的に伝わり、せっかくの輸入果実の美味しさを半減させたに違いありません。 そうに決まっています。
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