クラブ・キャッスル

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「シュウくん、まだ自分の世界に浸っている」レイカさんの矛先が僕に向けられた。「タクマくん、カズくんと違って、自己主張の足りないところがあなたの課題ね。何度も繰り返し言っているでしょう。目の前の相手を楽しませるには、一瞬でも気を抜いちゃダメよ。お客様からクレームは受けていないけど、そんな白けた顔を仕事中に見せていないでしょうね」 「すいません、二人がいるのですっかり油断していました。以後、注意します」  僕は深々と頭を下げる。レイカさんから説教を受けるのは久しぶりだ。母親から怒られたみたいで、妙にくすぐったいような感じがした。口調は厳しいけれど、その根底に愛情が認められるから。 「もしお客様の前でそんな顔をしたら、みっちりお仕置きするからね」  そう言って、悪戯っぽく笑う。僕が大好きな笑顔だ。余韻に浸っていたら、カズが軽口でまぜっかえした。 「俺もお仕置きを希望するっす。うんと濃厚なヤツをプリーズ」 「レイカさん、カズは相手にしない方がいいです。さっきから話がそれてばかりで、少しも前に進んでいません」 「ううん、タクマくん、あなたたちの仕事ぶりには心配していないの。気がかりなのは、メンタル面なのよ。肉体以上に精神をすり減らす仕事だからね」  その点については同感だ。お客様によっては、話を聞いているだけなのにひどく消耗することがある。例えば、レイプとか性的虐待とか、悲惨でネガティブな内容だ。そういうお客様が続くと、毒気に当たることがある。
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