161人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
内田真人【17歳】<3日目・午前 自宅>
四肢を分離し、骨と肉に分けて黒いごみ袋に分別し、数時間が経過した。
太陽は昇っている。人間の体は筋も硬く、重労働だった。ようやく作業を終えた二人は、ゴミ袋を脱衣所に置き、トランクス一枚で作業していた健也が言った。
「オレ、シャワー浴びたいから、掃除やっとくわ。真人は台所に行って直美と肉を細かく切っておいてくれる?」
「バケツと包丁はすぐに使うから洗う必要ないから持っていくな」
「わかった」
真人は血塗れの足を洗い、浴槽を出て、骨と肉に分別した重たいゴミ袋と包丁が入ったバケツを手にして、台所へと向かった。
未だ放心状態の直美がリビングのソファで膝を抱えて座っていた。
真人は直美に話しかけた。
「大丈夫?」
直美は言った。
「気が狂いそうだったから、室内のゴミを集めて英治さんの衣服と一緒にゴミステーションに持っていったから」
「こんな事できるなんて、もうとっくに正気の沙汰じゃないのかもな。彼はもう肉になったから、細かく切るの手伝って」
「うん。でもどうやって挽肉にするの? 真人のウチにミンサーってあるの?」
「それが問題なんだよ」
その時、玄関のチャイムが鳴った。壁時計を見ると9時30分だった。マスに表示されていた約束の時間だ。
「ちょっと玄関に行ってくる」
真人は、留美子から貰った報酬が収められた茶封筒から7万円取り出した。
人肉ハンバーガーを作るのは実費。『ローン地獄』の現金もだいぶ減っていたので、こちらも7万持てば足りるだろうと考えた。
真人は玄関のドアノブに手を伸ばした。
「いま出ます」
どんなヤツがチャイムの鳴らしたのか、緊張しながらドアを開けると、母親が勤めているスーパーの店員二人が、山積みにした段ボールを抱えて立っていた。
「ふ~、重かった」段ボール箱を通路に下ろした。「階段がきついねぇ」
真人は尋ねた。
「その、箱は?」
「注文したのは君でしょ!」と言ったあと、続けた。「昨日の午後6時過ぎに、玉葱30個、レタス50個、パン粉20個、牛乳3パック、サラダ油20本、卵3パック、それからサランラップ50本の予約を真人君本人からウチのスタッフが電話注文受けてるよ」
「……」
(オレのふりをしてゲーム側から注文したんだな……それに、夕方6時にオレが注文したことになってるってことは、その時点で“人肉ハンバーガー”を作るように仕組まれていたってことか……)
深刻な表情で考え込んでいる真人の顔を見て、店員は首を傾げた。
「注文してきたよね? いいんだよね?」
「はい。大丈夫です。で、お会計は?」
「え~と」領収書を開き、「28,977円になります」と満面の笑みで合計金額を伝え、領収書を真人に差し出した。
真人は三万円渡し、1,023円のお釣りをもらった。
店員は言った。
「荷物、自宅に入れようか?」
「お願いします」リビングには入ってほしくない。「ここに置いてもらえますか?」
「台所まで運ばなくていいの?」
ゴミ袋には切り刻んだ死体は入っている。絶対に台所に入ってほしくない。
「いいえ、けっこうです」
店員は商品が入った段ボール箱を廊下に積み上げ、「まいどう、ありがとうございました! ハンバーガー作り頑張ってね! お母さんによろしく」と、挨拶してドアを閉めた。
その直後、再びチャイムが鳴った。
真人が玄関のドアを開けると、白いケースを5枚ずつ重ねて持つ配達員が二人立っていた。
「おはようございます、パン屋で~す! 重い! 重い! 室内の廊下に下ろさせもらっていいかな?」
「どうぞ。段ボール箱の奥にお願いします」
(パンがないとハンバーガーが作れないよな……)
「はい」
パン屋は指示されたとおり、段ボール箱の奥に5枚重ねたケースを置く。計10枚のケースを差して説明する。
「ご注文頂いていた、ハンバーガー用のパン100個。ケース1枚につき、10個ずつ入っているからね」
「はい」
「ケースはいつ取りにきたらいいかな?」
「明日の夕方ころお願いします」
ハンバーガーを入れるのに使える。それにその頃にはどんな結果にせよ、『リアル人生デスゲーム』が終わってるはずだから。
「わかったよ。う~んと合計で12,960円になります」
「はい……これでお願いします」
13,000円渡し、40円のお釣りと領収書をもらった。
「まいどう、ありがとうございました! またよろしくお願いします!」
「あ、はい」
もう二度とこんなにもパンを大量買いすることはないだろう……
パン屋が去り、ドアを閉めようとした時、いつもの宅急便の男性が大きめの箱を持って、真人に会釈してきた。
「おはよう! 真人君宛てに荷物だよ。着払いね」
「おはようございます」
(こんどはなんだ?)
「21,384円になります」
「2万!?」
「まちがいないよ」
「……」
(いったい、何が入ってるんだ?)
箱の上部に貼られた送り状には“壊れ物”としか書かれていない。
真人は21,400円出し、14円のお釣りをもらい、サインした。
「ありがとうございました!」
「ご苦労様です」
配達員が玄関を出てすぐに真人は、その箱を開封してみた。するとミンサーが入っていた。
「だから高かったんだ」
ハンバーガーを作る前に、ハンバーグ作らねばならない。まず、挽肉から拵えた方がいいだろうと考えた真人は、ミンサーを手にし、台所へと戻ろうとしたとき、脱衣所のドアが開いた。
シャワーを浴び終えた健也は廊下に並べられた材料を見て驚く。
「なんだこりゃ!」
「スゲーだろ? 全部材料。パンが100個あるから100人分作れってこと」
「マジかよ。日が暮れそう。『ローン地獄』よく一人で作ったな」
「オレもそう思う」
二人は直美が待つ台所の床に、キャンプ用のビニールシートを敷いてから、その上にミンサーを置いた。
準備万端、さあ始めようと思った直後、ピンポーン。またチャイムが鳴った。
「今度は何だよ!?」
最初のコメントを投稿しよう!