圭吾と彰

25/34
101人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
「まあ、飲めよ。カモミールティーは、気持ちを落ち着ける効果があるんだ。俺も、ときたま、世話になる。」 速水は、俺に勧めながら、自分も一口飲む。 「…確かに、高見沢の言うことには、一理あるよ。吉水先生の本のなんだから、本人がいなきゃ意味がない。正論だ。 でも、時と場合によるんじゃないか? 今日は、一緒に来たいって、彼女は、言ってたけど、締め切り間際の仕事がひとつあるんだ。そっちをやってもらわなきゃ、この先の仕事すべてに影響する。 まだ彼女は、新人の部類なんだ。書けませんなんて言って、仕事断るのは、100年早いよ。第一、一度受けた仕事が出来ないなんて、問題だ。 だから、今日は、俺一人で来たんだ。」 真っ直ぐこっち見て、そう説明されたら、もう文句は、言えないよ。 「わかった。理由も聞かないで、責めるような言い方して悪かったよ。」 「わかってくれたら、それでいいよ。さて、本題な。 これが、一応、見本。吉水先生には、ここに来る前に、見せてOKもらってある。 描いた本人がOK出してくれたら、これで、本刷りしてもらう。それで、どうだ、出来は?」 俺は、差し出された本を、手にとって、表裏をしっかりと、見ていく。 ああ、本当に、本になるんだ! 俺の描いた絵が、表紙を飾る本が店頭に並ぶんだと思うと、気持ちが昂ってくる。 「速水、これで十分だよ。」 「なら、このまま本刷りしてもらうように手配するよ。」 「よろしくお願いします。」 「そんなに、かしこまらなくてもいいよ。俺から、持ち込んだ仕事なんだから。」 速水は、苦笑いしていた。
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!