待合室の男

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 以来、内科の前を通るたびに思うことがある。  もしあの時、単なる同姓同名だと思い込んで男を見過ごしていたら、俺はどうなっていたのだろうか、と。  …あの時、横を過ぎようとする男はうっすらと笑っていた。それを見た瞬間、どうしてもこの男より先に自分が受付に名乗りでなければと思った。  そうしなければいけないと直感した。ただそれだけだ。行動に根拠はない。  それでも、俺は自分の判断が正しかったと思っている。  もしかしたら…本当に、もしかしたらの話だが、あの時反応しなかったら、今頃俺は、待合室の片隅の席に、うつろな目をして座り込んでいたかもしれない。  真実は判らないが、不思議とそんな気がしてならなかった。   待合室の男…完
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