第1章

2/40
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
雹は、カイザー製薬の永沢宅を出た後、自分の住処へ帰る途中コンビニに寄った。 月龍に頼まれていた、ハーゲンダッツのバニラアイスを買う為だ。大きいサイズが無かったので、 小さいサイズのものをあるだけ全部籠に入れた。途中で溶けるといけないのでロックアイスも四袋購入した。 車庫に車を停め、部屋に戻ると月龍は爆睡していた。部屋の電気を点けても微動だにしない。 冷蔵庫にアイスを仕舞って月龍の寝ているベッドに腰掛けて月龍の寝顔を見ていてふと、ある事に気付いた。 (そうか。月龍は俺の母に顔が似ているのだ)自然に雹は、自分の幼い頃の事を想い出していた。  父は焔光という。焔家十三代目当主である。焔家は江戸時代から続く医師の家系だ。徳川家の御典医として代々栄えてきた。 そういう事もあって焔家は、政治経済界とも裏社会とも、古くから深い繋がりがあった。 光は決して腕のいい医者ではなかったが、経営や人の使い方がうまかった。ホムラメディカルセンターという名称に変え、 積極的に精神科を取り入れ、精神と肉体の医学の融合を日本で初めて唱えたのも光だった。 患者への接し方もマスコミを使ったイメージ戦略も総合病院として繁盛するのに役立った。 要するに医学を金に換える技術に長けていたのだ。母親は焔凛(ほむらりん)といった。旧姓は氷川だ。 元銀座のクラブのナンバーワンホステスだった。あまり現実界で逞しく生きていくというタイプではなかった。 夢見がちなお嬢様という感じだ。外見が、ずば抜けて華やかでセクシーな顔立ちだったから一般企業に勤めても、 周りとすぐにギクシャクしてしまったらしい。 夜の世界の仕事は苦手だったが、孤児院育ちの凛としては生きていく為には仕方が無かった。 焔光は氷川凛を一目見て、俺の奥さんにしよう!と思ったらしい。 光の熱烈なアプローチに根負けした凛は、ついに結婚を承諾した。そしてすぐに双子を産んだ。雹と武である。 ここまでの話は全て光から聞いたものだ。当時、焔光の両親はまだ生きていた。 しかし一人息子の光がどこの馬の骨とも知れない孤児院育ちの女と結婚すると言い出して猛反対した。 しかし光はそんな両親の言う事など全く意に介さない。自分勝手に結婚式を行い勝手に新居を購入し、実家を出ていった。 途中から光の父は諦めたが、母は毎日の様に凛の家に押しかけて文句を言って帰るのだった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!