第1章

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 雹は新宿プリンスホテルのロビーで、アイスコーヒーを飲んでいた。今日は、新しく作った武器の試射の為に来たのだ。 麻薬のほうは、やっと、昨夜、カイザー製薬の永沢秀明に試してみて、完成したのだ。思った以上にうまくいった。 この麻薬は、南米のジャングルの中で採取した、マジックマッシュルームの突然変異株から、 雹が十年の歳月をかけて更に遺伝子操作を加え、開発した麻薬である。 この麻薬は、人間の感情の中で、罪悪感だけを際限なく強める働きがある。 十年前から殺しのターゲットを拉致し、何十回も試してきた。そして、その度に改良を重ねた。 この麻薬を雹は『ジムノペティ』と呼んでいた。これを投与されると、罪悪感が強くなりすぎるあまりに、 自分の罪に関わる全ての人間を断罪しようとする。それでも罪の意識からは逃れられず、最終的には必ず自殺するのだ。 つまり、投与されてからまず、家族や犯罪の仲間などを殺してから自殺するので、はたから見ると、 殺人の罪の意識にさいなまれて自殺した、と断定されることになる。誰も雹の投与した薬のせいとは思わないだろう。 しかも、雹は、その麻薬成分を、体温で溶ける樹脂成分で針状に固める事に成功した。 それを連続で百発撃つ事のできる短針銃も開発したのだ。この短針銃の外観がまた面白い。 皮の手袋をはめて人差し指と中指だけ真っ直ぐに伸ばした形をしていて、銃口は中指の先端に、 小さく穴があいているだけなので、見た目は銃と判らない。そのために、雹は長めの袖の黒コートを着ているのだ。 銃を二丁持っていても、見た目は、少し腕の長い人にしか見えないというわけだ。今日は、その短針銃を2丁、持ってきている。 アイスコーヒーを飲み終えると、代金を払い、雹はプリンスホテルを後にした。
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