第1章

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場内からは、盛大な拍手が沸き起こる。「場所は極神空手大武道館。時間は明日の午後六時入場、開始七時。 爛お嬢のお相手は、司一十三という女性で、現役高校生の十八歳です。 特に公式な試合での実績はありませんが、極神空手全国大会の成人男子の部八位の実績のある、 山本太一郎という人物に、勝ったという、驚くべき実績があります。皆さんご存じの通り、爛お嬢は、あまりに強すぎる為、 世界の空手大会で、まさに敵無しの状態です。 今回、慰霊試合という事で、なるべく実力伯仲の試合を行いたい為に、私の持てる力を駆使して探し出しました。 皆さまに置かれましても、積極的なご参加を宜しくお願いします。それでは、お嬢。一言、ご挨拶をお願いします」 白川が爛へマイクを渡す。爛は端正な顔立ちの美人だが、喪服の袖からチラと見える、 引き締まった太く逞しい筋肉の付いた腕を見ても、相当な長年の鍛錬を思わせる。 爛はマイクを持ったまま、ふっと閉じていた目を開ける。 「故黒崎竜三が孫、黒崎爛でございます。明日、慰霊試合では、祖父の遺志を示す為、精一杯、取組みたいと思います。 どうぞ、宜しくお願いします」落ち着いた腰の据わった、いい挨拶である。 爛はそれだけ言うと、マイクを犬養弁護士へ渡し、自分の座に戻った。 最早、誰も白川に逆らえる様な人物は、山王会には存在しない。白川は今までの死ぬ様な苦労を想い出していた。 だが、まだまだこれからだ。俺の夢は、まだ始まったばかりだ。 昨夜の雹との話の中で、白川は、気持ちを新たに自分の今世にやるべき天命を知ったのだ。 漠然とただ、自分の闇の帝国を築くという目標に、明確な意志が加わった。 それは、あまりに大きく、途方もない夢だが、一生を掛けて取り組む意義のある事だ。 白川の魂が今、本気で発動している。 今までの青き炎の情熱に加えて、真っ赤に燃え滾るマグマの様な熱情を静かに抑える白川であった。
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