蟻の群れ

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蟻の群れ

 庭先で蟻の行列を見つけた。  この暑いのに、せっせせっせと餌を運んで行く。  何となく感心して、何か与えてやりたくなった。  台所にあったスナック菓子を一つ掴み、列の上で砕いて落とすと、蟻達はたちまちかけらに群がり、一つ残らず運んで行った。  それがちょっと楽しくて、蟻の行列を見かけると菓子を与えてやっていた。  だけどある日、たまたま与えてやれそうな物がなくて、今日はナシだと思ったその時、ふと、縁側に転がる蝉の亡骸を見つけた。  死んだ蝉や蝶を蟻が運んで行くのはよくあることだ。  ごみとして片づけるよりは、自然の生態系の一部にした方が蝉の死骸も本望だろう。  そう思い、群れの上に落としてやった。もちろん砕くとかはせず、亡骸そのままを落とした。  それを蟻達は運んで行った。  …それからどれだけかが経ったある日。  飲み屋で泥酔した友人を送って行くことになった。  友人の家はタクシーを使う程でもない距離なので、千鳥足をもつれさせる相手を支えながら歩く。  酔いすぎていて、肩を貸しても右へ揺らり、左へ揺らり。おぼつかないことこの上ない。  しまいには意識が途切れかけているのか、足が止まって立ち尽くす始末だ。  たいした距離ではないけれどタクシーを拾おうか。あるいはいっそ、背負って行ってやるべきか。  考えている横で友人が膝を崩す。咄嗟に、起こしてやろうと手を引いたが、向うに握る力がないせいか、掴んだ手の中から友人の手はすり抜け、地面に体がばたりと倒れた。  その瞬間、辺り一帯を黒い物体が埋め尽くした。  地面を覆った黒い影がわさわさと揺れる。その動きに合わせるように友人の体が動き出した。  引く波にさらわれるような、凄い速度で友人の体が遠のいていく。何が起こったのか判らず、暫く茫然としていたが、友人の姿が曲がり角の向こうに消えた瞬間我に返り、俺は慌てて黒い物体と友人を追った。  曲がった角の向こうには何もなかった。  蠢いていた黒い物体も友人の姿もだ。  ただ、夜の暗さの中、それでもはっきりと、一匹の蟻が慌てたように進んで行く様子が何故が視界に入った。
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