一章

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道雄はときたま悪い夢を見る 寂しい夢だ そんな夢を見た時は、なぜか寂しい曲を聞きたくなる 道雄は妻の薫に、ピアノで、悲しい曲を弾いてもらう 薫は、本当は悲しい曲は嫌いなのだけれど、道雄のリクエストとあらば、それにいつもこたえてくれる 少しだけ大きめの眼鏡で、道雄の表情を見渡し 悲しい曲か楽しい曲かを、どちらを欲している顔かを見定め、あまりずり落ちてはいないはずの眼鏡を薬指だけであげるのが薫の癖であり、ピアノを弾き始める合図にもなっていた
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