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「もう遅かったか‥‥」
一人の少年が私の前に立っている‥‥。
薄れていく意識の中で私は必死に何かを訴えようと口をパクパクさせた。
玄関の前で倒れている私を他所に『彼』は通り過ぎた。
「おね‥‥がい。私の家族を……たすけ‥‥」
最後まで言えなかった。
体が重い‥‥彼方此方痛む……。
そんな私を見下すように『彼』は言った。
「安心しろ‥‥。俺はお前の友人に頼まれてきたんだからな」
ふふっと笑う彼に私は安堵した。
よかった‥‥これでストーカーから家族を守れる。
安心したのか私はそのまま目を閉じ意識を失った。
あれはいつからだろう?
私はいつも人の視線を感じるようになった。
登校も下校も‥‥友達と遊びに行った時も。
いつだって人の視線を感じた。
帰り道が怖くて急いで家に帰る‥‥。
そうすると視線は感じなくなる。
家族には話したけど‥‥半信半疑であまり信じてもらえなかった。
そんな日々を繰り返していた‥‥。
警察は実際に被害が出なければ動いてくれない‥‥。
私の友達が探偵社の広告を見たから一緒に行こうと誘われたんだけど、今日の食事当番が私だったので買い物をして帰ってきた。
その時、後ろを振り向こうとすると男性が無理やり後ろから抱きついてくる。
「やめてください! 」
必死に足掻いたけど所詮私は女子高生。大の大人に力で勝てるわけがない。
「俺のこと好き? 好きだよな? 俺もお前が好き」
見ず知らずの人にそんなこと言われてもどう考えていいのかわからない。
私は勿論懸命に首を横に振る。
あなたにそんな気持ちはありませんよ、と‥‥その意思を行動で示した。
人間ってこういう絶体絶命のピンチの時に凄まじい力が現れる。
この小柄な私が大人のストーカーを玄関の扉に突き飛ばした。
その後は‥‥必死に家の中に逃げ込もうとしたけど背後から殴られた‥‥と思う。
実際に見たわけじゃないんだけど‥‥なんとなくそんな感じがした。
ああ‥‥私、死んだんだ。
目の前に広がる血の海を見て確信した。
もう助からないよね‥‥この血の量じゃ‥‥。
さよなら‥‥パパ、ママ、翼。
さよなら‥‥みんな。
目を閉じて大好きだった人達の顔を思い出す。
今まで生きてて楽しかったこともフラッシュバックした。
これが走馬灯なんだ。
私はそっと微笑んだ‥‥そこからの記憶はもうない。
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