第6章

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どこにこんなに惹かれるようなモノがあるんだろう。 若さ? ある程度年老いた自分にしてみればそれはそれは 羨ましいに違いないし 戻れるものなら戻ってみたい時代(トキ)もある。 だけど 違うだろ。 「腹減ってる?」 「……訳わかんなくて、減り減りです」 「なんだ、たったアレっぽっちでぐったりか。 この先は……」 こんなもんじゃ済まない。と言いかけて やめておく。 まだ どうにもこうにもなっていないことに気付いたからだ。 斉藤の心はもう変わっているかも、しれない。 あれから何ヶ月だ? 気を持たせるように止んだセリフの行方を 追うことはしなくて また目を合わせることなく、前に集中したままの斉藤を横に抑えながら車を走らせた。 その日のうちに“好きが嫌いに”なるような頃合の女に、ひょっとしたら無謀な挑みをかけたかもしれないくたびれたオヤジ。 だということを今更気にするあたり 「遅れてるな」 自嘲のつもりだったのに 「は?何がですか? 遅れてるって、!このいきなりの暴挙? ん?暴挙?まぁ、いいや。うん。 こんなのは、流行りかなんかですか!」 黒い髪が揺れる。 肩のあたりで一度、撓(タワ)んでサラリと流れていく様を見て ああ、ここだ。 そんな風に思った。 静かな、想い。 安らかで、危険な、想いは これからどんなふうに流れていくんだろうか。 全部流れてしまっては身も蓋もない。 だけど どこかで拾ってくれる、そんなことを願い そんなことに憂いながら口を開いた。 「なぁ、斉藤」 「はい」 「オッサンだけどさ、燃えるもんがあるんだよ」 目の前の赤いライトに続いて、左足のペダルを踏み込んだ。
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