エピローグ

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「――春!」 突然、夏樹が大声をあげた。 急に怒鳴られる意味がわからなくて、鈴音はびっくり飛び上がる。 「何、鈴音に言わせてるわけ? ふざけてんじゃねーよ」 それからふと鈴音に向き直ると、 「こんなはっきりしない野郎、鈴音からフっちまえ!」 「は?」 それから床にひざまずいて上体だけを起こし、下から鈴音のこと見つめあげる。 真剣な眼差しを向けながら、鈴音の手を取った。 そのキザな仕草は、格好いい夏樹にはよく似合っているが、まるでどこかの騎士みたいだ。 あまり日本でお目にかかれるものじゃない。 「なっ、夏樹、てめぇ――」 後ろで春一が慌てたような声をあげるが、そんなことは全然かまう様子もなく、夏樹は、甘い微笑みをその顔に滲ませて、 「春なんか捨てて俺と付き合おうよ、鈴音」 と言った。 「へ?」 思わぬことを言われて、鈴音はついマヌケな声が出る。 赤面してしまったのは、単なる条件反射だ。 すると、 「ずっりーぜナツキ。そんなら俺も」 秋哉までが体を乗り出し、鈴音の手を握っている夏樹の間に割り込んできた。 「今回は俺さ、ちっともスズネにはいいとこ見せられなくて悔しいんだ。だから俺にもう一回、汚名挽回するチャンスをくれない?」 高校生らしい爽やかな告白をくれたが、 「汚名は返上するもので、挽回じゃないぞ」 背後から春一が、まったくもってジャーナリストらしい突っ込みを入れてくる。 「……ぐえっ」 せっかくの告白が台無しになって、秋哉はマンガみたいにヘコんだ。 「恥っずかしいやつ……」 夏樹が憐れむ眼差しを、やり込められた秋哉にむけている。 それにしても、この突っ込みのタイミング。 どこかで見たことがあると思ったら、以前の秋哉と冬依のやり取りとまったく同じだった。 『やっぱり兄弟って、似てないようで似てるんだなあ』 鈴音は妙なところで感心してしまった。
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