第1章

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西木晴哉(にしきはるや)は、郊外の総合病院に車を走らせていた。 この春から社会人の仲間入りをするにあたり、たしなみとして生命保険に加入しなさいと両親に進められたためだ。 三日前、親の知り合いの保険屋がやってきて、一通りの説明を受けた。 最後に、保険に入るには健康である証明が必要で、医師から身体検査の診断書を貰う必要があるのだと言う。 「お若いから、健康そのものでしょうけど、保険に入ってすぐに病気になられても困るから……一応、形式的なんだけど医師の診断書が必要なんです。病気とか無いでしょ?」 「ない、です……」 厚化粧のおばさんの営業スマイルに圧倒され、晴哉の声は消え入るようだった。 「だよねえ、スリムで健康そうだもん。イケメンだし、うらやましいわ」 歯の浮くようなお世辞に晴哉は苦笑いした。 「身長、体重、血圧とか、だいたい十五分くらいで簡単にできるから」 めんどくさいと思ったが、三流とはいえ大学の学費も、車も両親に援助してもらっていたので、嫌とは言えなかった。 で、今日。身体検査を受けるために病院に行くことにした。 保険屋の話では、小さな町医者でもやってくれると言っていたが、晴哉にはそんなあてもなく、郊外に大きな病院があったよなと思いだし、車を走らせていた。
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