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時刻は夕方の四時。
東京メトロ副都心線の改札を抜け、半地下の構内から地上に出た私を待ち構えていたのは、その殺人的な直射日光だった。
てらてらと照り付ける太陽の光を避けるようにして、雑然と人の群れが流れている。
その光景は同じ新宿でも、歓楽街の形相を呈する夜の姿とはひどく対照的に思えた。
私の今日の服装は、白い半袖シャツに下は薄手のスラックスという軽装。
だが、そんな姿でも身体から汗を滲ませるのには十分すぎるほどに今日の気温は高く、蒸し暑く感じられた。
私は新宿アルタ前近くの、とある喫茶店を目指してその歩を進める。
そこで人と待ち合わせをしているのだ。
談笑しながら歩くカップル、電話をしながら歩くリーマン、派手な格好をした水商売風の若者……など、様々な人種を横目にしながら、私は小走りで目的地に急ぐ。
もう既に遅刻をしている。
その喫茶店のあるビルの前に辿り着いた時、私の身体は汗でびしょ濡れになってしまっていた。
若干ではあるが息も切れてしまっている。
……早く煙草が吸いたい。
私は一呼吸を置いてから、ビル横に備え付けられた螺旋階段を一気に駆け上った。
不便なことに、その喫茶店にはエレベーターで行くことが出来ない。
階段を上り終わり、黒いゴシック文字で、喫茶店ラグアージュと書かれた片開きの木製ドアを開け、店内に入る。
店内にはエアコンが十分過ぎるほどに効いていて、外で感じていた暑さはすぐに消え去った。
と同時に、その温度差があまりにも激しすぎたせいであろう、私の身体はブルっと震え始めている。
「いらっしゃいませ、こんばんは」
淡桃色のシャツと茶色いスカートに身を包んだ可愛いらしい店員が、私を迎え入れてくれた。
そして私は、彼女のそんな姿を頭の先から爪先まで観察する。
これは綺麗な女を見るといつもしてしまう、私の悪い癖だった。
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