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「そういうこともあったなあ」
思い出した記憶にはまだ続きがあるけど、とりあえず一息。そろそろ瑞生の家につく。
「瑞生のことを瑞生って呼ぶようになったのもそのちょっと後だったね」
「はい。わたくしが北司と呼ぶようになったのも同時に」
瑞生が照れた。俺も恥ずかしかった。
「……瑞生、ちゃん」
「……北司、くん」
唐突に珍しい呼称で呼び合う。顔を見合わせて、二人とも苦笑する。
「やっぱり、恥ずかしいですね」
「だから今の呼び方になったんだよね」
「はい……ふふ、でもこれくらいでも……いえ、なんでも」
「そうだなあ……二人きりのときはそうしてみる?」
「……いえいえ。それは……ふふっ、どうでしょう」
瑞生が困り眉で微笑む。満更……なんてこともないか。俺はちょっとドキドキしてたけど。
「──仲睦まじいですね、お二人さん」
「「え……」」
背後から振り向けば一宮お母様が俺達に微笑んでいた。瑞生の顔が一瞬でトマトのように赤くなる。
「あ、いえ、これは別に北司くんとは何もなくて……いや、北司に送ってもらってるだけであのその……いつ、から?」
「瑞生、落ちついて」
「あら、瑞生ちゃんとは言わないんですね」
「…………!!」
瑞生が声にならない声を上げた。
「お母様! 盗み聞きなんて趣味が悪いです! 北司もそう思いますよね!?」
「あ、うーん……」
お母様の方を見る。
「私は瑞生ちゃんの可愛いところを見ることができて大変満足です。反省はしますが後悔はしません」
真面目そうに見えてお茶目。口調は至ってラフ。
「もう! お母様!」
そうして瑞生がポカホカとお母様の背中を叩くように押していく。
「それでは北司、また明日!」
「失礼します、北司くーん」
「はい、お母様。……瑞生ちゃん」
「もー!! 二人とも!」
強引に母親の背中を押して家の中へと入っていく瑞生。お母様は綺麗にウインクしてきた。
「すごいなあ……」
「──あんまりお姉ちゃん困らせないでよね」
「美怜さん」
今度は美怜だ。クールな表情で俺の横に立った。
「お疲れ様です。お仕事ですか?」
「そ。……ソーマのところの新商品もあるし」
「あー……副社長さんから話いったんですね」
「そ。だから今度ネイルしてよね」
「はい、それはもちろん」
「あとね。あれもこれも──」
そうして美怜は一方的に色んなことを話し続ける。愚痴というか、最近は本人の日常をよく聞かされる。
気安く思われるようになったことは次に話そうか。
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