水面に映るモノ

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その日私は、地元の友人たちと久々に会っていた。 この土地を離れていった子たちが里帰りしてきて、お墓参りも済ませ空いた時間に皆で遊ぶ事になったから。 「これはもう、海に行くしかないよね」 そう言ったのは誰だっただろう。 小さい頃から散々、この日は海に入ってはダメと大人に言われ続けたが、でも今なら子供の頃と違って十分に気を付けられる。 人工呼吸の方法も、離岸流の対処法だって覚えた。 偶然にも皆水着を持ってきている。 何より、いつもは人で沢山の海水浴場に、今日は片手で足りるほどしかいないのだ。 他の皆も同じように考えただろう。 あの広い砂浜が、自分たちだけで使い放題なのだから。 すでにその場にいたのは、親の里帰りについてきたであろう子供たちが、絶対に海には入るなと口うるさく言われながら、落ちている貝を拾っているだけ。 広い広い水の中には誰一人、居ない。 同じように口を酸っぱくして言われた準備運動など忘れ、各々海へと飛び込んでいく。 もちろん、私もその中に含まれる。 数年ぶりに押入れから引っ張り出してきた浮き輪を膨らまし、それを使い海へと入る。 まぶしい日差しを浴びながらぷかぷかと、理想像では優雅に寛ぎ浮かんでいた。 はしゃいで水しぶきを飛ばす友人たちを、子どもたちが羨ましそうに見ている。 親は呆れたような目をしていた。 それらすべてを私は眺めている。 あの喧騒とは遠く、気分はセレブだ。 そんな私をまた別の友人が笑って見ている。
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