第22話

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調理場の雑用担当は、わりあい仕事が終わるのが遅い。娼家よりこちらお座敷の方が店じまいは早いのだが、それからが長いのだ。 客にお出しした脚付き膳を水拭き、から拭きし、器を洗い、お座敷を掃除したのち、明日の朝餉(あさげ)に使用する食材を料理長が指示した数通り作業台に並べていると、いつしか娼家の釣り灯篭は消えており、露地は泊まり客がいる部屋の行灯の明かりがところどころの窓から漏れているばかりの寂しい薄闇にと様変わりしている。 しかして今宵、シノが仕事を終えて下舎に戻ったのは、丑の中刻である。 「あれ?」 暗闇のなか廻廊を伝っていると、部屋の障子がぼんやり明るいことに気付いた。 下女は三人ないし五人の共同部屋が基本で、シノは三人部屋だが、三歳年上のモエと二人で部屋を使っている。 いつもならモエはすっかり寝ている時刻だが、まだ起きているのだろうかと思いつつ障子を開けた。 「シノ。調理補助の担当をはずされて雑用に戻ったって本当なの?」 モエは壁際の文机に向かって座していた。 障子を照らしていたのは、文机に置いてあるろうそくであったらしい。 「うん。もう知ってるんだ……」 障子を閉めると、ろうそくの火が微かに揺らめいた。
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