第1章

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夏の暑い日差しを吹き飛ばすように、松の原から次々と休む間も無く涼しい風が吹いていた。 その中を白い狩衣の袖をなびかせながら、陰陽師 葛原瑞晴(くずわらのみずはる)が歩いている。 まるで女人のような美しい顔立ちには似合わず、数々の鬼や妖などが起こす怪異を見事に解決していた。これが、都でも評判となり主上からも信頼されるほどの腕であった。 今日もまた、例年より人が海に飲まれているので、何とかして欲しいと主上から直々に命が下されたのであった。 夏の暑さを感じさせないような無表情な瑞晴の隣で、浅野光昌(あさのみつまさ)が暑さに耐えるように汗を垂らしながら歩いていた。 光昌もまた都で妖退治の検非違使として都で名を馳せていた。何でも頼まれると断れない性分で、自分にできることあらばと身分に関係なく相談事に応じていた。 そのためか、無表情で無口な瑞晴に頼みたいことがある時は、大抵の者は光昌を経由して依頼をしていた。
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