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「一学のプリンス」の裏の顔を知ってしまった俺は、なぜかそれを誰にも言えなかった。
先生に「あいつ屋上で煙草吸ってます」と言うことは簡単なはずなのに、なぜかそれを言う気になれなかった。
たぶん、他の奴が知らない如月の顔知って、一種の独占欲みたいなものが刺激されたんだと思う。
プリンスが本当はどんな顔で、どんなことをしているのか、
それを知っているのは、俺だけ。
なんでそれがこんなに甘く痺れるのか分からない。
こんなのちょっと変だ。
その自覚はあるんだけどな……。
ぼんやりとそんなことを考えたのは、売られた喧嘩を買って路地裏で他校の生徒と殴り合いをしていた時だった。
俺一人対五人。
幸い相手は武器を持っていなかったが、それでも明らかに分が悪い。
なんとか三人をのしたところまではよかったが、そこで鳩尾に一発叩き込まれてうずくまってしまい、さらに背中を腹を蹴り上げられたせいで身動きが取れなくなくなる。
ちゃんと息できてるし、骨は折れてないはず
だけどこのままやられると本格的にまずいかもしれない
むせ込みながら相手を見上げると、にやにや笑いが返ってきた。
「この間うちの後輩殴ったらしいじゃん。」
「あいつ鼻の骨折れたっつって病院行ったんだぜ?」
「喧嘩売ってきたのはあっちだろーが。」
「あ?テメェまだ無駄口叩いてんのかよ!」
ヤバい、顔面に膝いれられる
相手の足が動いたことに気が付いたはいいが、さっき殴られたせいですぐに体を動かせそうにはない。
反射的に腕を上げて顔の前に持ってきたとき、路地の入口の方から声が聞こえた。
「おまわりさーん、こっちです、こっち~。」
警察沙汰になるのを恐れたのか、相手は倒れ込んでいる仲間を引っ張って猛スピードで逃げて行った。
取り残された俺は言い訳を考えながら声がした方を見る。
ところが、そこには警察官の姿なんて全くなかった。
そのかわりに退屈そうにあくびをかみ殺す如月が立っていた。
「き、如月?!な、なんでここに?」
すると如月は地面を指差す。
「ここの地下にクラブあるから。」
「クラブ?お、お前そんなとこに出入りしてんの?!」
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