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口に出して呟いてから、俺は自分の発想のうすら寒さにため息をついてしまう。
俺じゃあいつの手を引けないだろうか、なんて……馬鹿じゃねえの。
俺とあいつは友達ですらない。
あいつはたぶん俺の名前はおろか、顔だってうろ覚えだろう。
もし明日学校で会っても、きっとあいつは俺が誰だか分からないはずだ。
それに俺だって本来それほど義理人情に厚いとは言えないし、困ってるやつを助けてやりたいと積極的に思うような人間じゃなかった。
……なんで?
今度の“なんで”は自分に対するもの。
なんで、俺はこんなに如月のことが気になるんだろう?
俺なんかがどうこうすることじゃないって分かってるのに……。
だけど、あいつのあの目……。
やっぱり、気になる……。
翌日、俺は顔に傷を作って登校したせいで、すぐに職員室に連れて行かれた。
喧嘩の相手が誰だか散々聞かれたが、めんどくさくて答える気にもなれなかった。
喧嘩相手がどこの学校のやつだか話したところで、教師どもがどうにかしてくれるわけじゃない。
だってこいつらは俺がどうして喧嘩をしてるか分かってない。
因縁つけられたとか、がん飛ばされたとか、そんなのは全部表向きの理由だ。
そんな簡単な理由で人を殴ったり、人から殴られたりしてるわけじゃない。
だけどそれをどう説明したところで、こいつらはどうせなにも分からない。
だったら話すだけ無駄だ。
俺の反抗的な態度は生徒指導の教師の気に障ったらしく、俺はその日の午前中いっぱい叱られ続けた。
なにを言われたところでどうせ右から左に受け流してるだけなのに、こいつらもごくろーさんだな……。
小ばかにした気分で指先のささくれを弄っていた時、職員室のドアが開く。
「失礼します。」
涼やかな声に、女性教師たちが色めきたつ。
この反応……。
半分予想してドアの方を向くと、案の定如月が王子様のようなキラキラスマイルを浮かべて立っていた。
「生徒会の今期の予算見積もりができましたので、目を通していただきたいのですが。」
「あ、ああ、ご苦労様。私が校長に渡しておこう。」
慌てて席を立ったのは丸顔に汗をかいた教頭だった。
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